『逆転戦略 ウィルコム「弱み」を「強み」に変える意志の経営』鈴木貴博監修

PHSは家族全員が持てるコードレスホンというコンセプトで始まった。自動車電話から始まった携帯電話とは理想形が違ったのだ。
・ドコモはインフラ協調型の「生活ケータイ」。auはパケットフリーによる「着うた」などの「メディアケータイ」。
iモードの成功はそのビジネスモデル設計にある。「キャリア」「コンテンツ提供事業者」「ユーザー」のwin-win-win関係を設定できたからだ。この仕組みによってポジティブスパイラルが成立した。
・情報にはインフォメーションとインテリジェンスの2種類がある。インフォメーションを組み立て、それによって構築した仮説を関係者にインタビューでぶつけることによって得られるのがインテリジェンスだ。
イノベーションの発見からその流通までには時間がかかる。あるゲームのコンセプトとそのプラットフォーム技術の成立まで著者が経験した10年という時間を例に。
・大企業からイノベーションは生まれにくい。大企業運営システムと企業家精神が異なるので。そこで本社とは別の場所・人事体系でイノベーションを促す環境を作れば良い。

これは面白かった。ダイナミックでスリリングな展開と、「仮設→検証」という明確な流れ。しかし一流コンサルティングファーム出身者の知識というか目の付けどころというか、分析能力には驚かされる。「ビジネスモデル」「収益の可能性」という観点においては新聞の経済部記者よりもはるかに鋭いのではないのか。鈴木貴博という著者の文章・視点は非常に勉強になる。信頼に足る評論家だ。