『東京ゴッドファーザーズ』今敏

非常に良かった。私の考える「フィクションかくあるべし」というような物語観にピタっと嵌りました。Oは「クリスマス前に観ると良い」と言っていたけれど、別にその時期限定でなくともいつでも楽しめる良作なんじゃないでしょうか。
ホームレス三人組が偶然に捨て子を拾い、様々な「奇跡」と呼ぶべき偶然に助けられながら子供の親を探す、乱暴にまとめてしまうとこんなお話。まずはプロットの凝縮具合には驚く。ホームレス三人のパーソナリティやそれを形成したバックグラウンド、あるいは子の親の姿・事情など細かいところまで丁寧に描かれている。もちろんそれはまともな映画なら当たり前のことだろう。ただ、それを90分という時間の中で完結させるとなるとどうしてもギュウギュウ感が漂うはず。それがこの作品にはそういった無理やりという印象がないんだな。10分置きに種仕掛けが明かされる展開には見事という他なし。
演出も穏やかで魅力的。胸にくるシーンはあくまでさりげなくで、基本は笑いで包むという監督の節度にモノ作り家の良心を感じた。三谷幸喜のような安っぽさではなく、いうなればビリー・ワイルダーのような洗練された都会のハートフル・コメディ。大変素敵です。
当然だけれど、中途から気付かされる「奇跡」について、私はそれに映画『奇跡の海』を感じた。結局のところ所詮は「作り話」に過ぎないかもしれない「フィクション」、それが持つ最大限の魅力ってこれだよなと私は思うのだ。偶然とか不思議とか奇妙なパズルが組み合っていくうちに最終的にあの素晴らしいビルの屋上シーンという「奇跡」が完成してしまう。「物語性」の力強さって本当にあるんだなと思わされる。
そういえば各所で絶賛されるマッドハウスのイラスト技術についてはさほど感じ入ることはありませんでした。「巧い!」と思わせず、過剰演出を排して作品世界に溶け込ませるという意味では確かに巧いのだろうが…、私は単純に気付かなかった。白い雪は印象的だったけれどね。
何にせよ名作です。『パーフェクト・ブルー』は単なるSF・サイコ・サスペンス・アニメという印象だったけれど、これはすごい。今敏は私の中で「フォローすべき監督」に格上げされました。