『千年女優』今敏

千年女優 [DVD]

千年女優 [DVD]

非常に面白い。『東京ゴッドファーザーズ』に比べ確かにインパクトは弱い。ただ、私はこちらの方が肌に合った。
往年の女優がこれまでの役者人生を振り返るというプロットだけれど、それはほとんどビルディングス・ロマン。いや、どちらかというと輪廻転生かな。お話を通して時代を超えて生まれて、死んで、また生まれて・・・と。大文学を通して読んだような印象を受けて、壮大さに胸を洗われるよう。
音楽が非常に印象的。ムーンライダース鈴木慶一が担当した『東京』の音楽は私には少々野暮ったく感じられ、それ相応の感動はありつつも、どうしても土臭さが感じられてしまった。対してこちらの音楽、つまり平沢進のミニマムテクノは非常に良かった。作品の質感ともマッチしていたし、何より情感を排した*1最小のリズムは私の肌にピタッと合った。テクノ特有の循環コード、あるいはループ、ブレイク、収束という展開は映画そのものの主題とシンクロしていてそれも印象的。単に桜の花びらが散っているような所謂ジャポニスムというのが多くの方の印象だろうが、それだけでないことがよく分かるのだ。
表紙から受けた「『細雪』みたい」という印象はそう間違ったものではなかった様子。美しい、儚い、けれども続いていくという日本特有の滅びの美学がべたべたした湿度抜きに描かれていて、とてもよい。構えることなく映画を楽しむのならば『東京』をすすめるが、文学崩れのような人間*2にはこちらの方が多くを感じられるのではないか。

*1:けれどもやはり景色・感情が感じられるんだな

*2:例えば私